歯科領域でスポーツとの関連を聞くと、この数年マウスガードの話がほとんどである。
ところで、スポーツ歯科の目的は何だろう?
大きく国民の健康づくりから考えると、使い古された言葉であるが「栄養・運動・休養」である。この中で、栄養については、摂食との関連からある程度、歯科からの支援との関連が考えられる。しかし、運動となると如何であろう。歯科との関連の研究が始められたのは、そんなに古い話ではない。
そこで注目されてきたのが、いわゆるマウスピースである。これをセットすることによって、運動機能が向上し、よい成績が取れるようになる。たとえば、ゴルフで飛距離が増すとか、ジャンプ力が伸びるという話である。なにも考慮せず、これに飛びついたスポーツ関係者や歯科関係者がいたことは否めない。
ここで、すこし待ってもらいたい。現代のスポーツには、ドーピングという禁止事項がある。ドーピングとは、「スポーツなどの競技で、好成績を挙げるためにステロイドなどの薬物を投与したり、その他物理的な方法をとること」とされている。ドーピングは薬物投与のみならず、物理的方法まで範囲に含むとすれば、前述のマウスピースはドーピング的行為といえよう。
しかし、マウスピースやマウスガードを否定しているわけではない。多くのコンタクトスポーツでは現在、マウスガードを使用して競技に望むことを義務付けているし、当然推奨されるべきことであろう。これは、より安全にスポーツをするために必要な医療行為である。実際に、学校でのスポーツ等による障害も、マウスガードを装着することによって予防できたと思えるケースも少なくない。
医療行為の結果、競技能力が向上することもあろう。たとえば、左右の咬合がずれていて、その補正のためにマウスピースを入れたとする。その結果、左右の身体バランスが修正されて競技能力が向上したとしても、これはドーピングとはいえないと考えられる。なぜなら、その人の身体の問題事項、ここでは咬合状態の回復に対する医療行為であるからである。このあたりが、薬物投与であるとかなり微妙なものになる。
歯科医療者は、国民の健康の維持・増進のために歯科医療をおこなっている。このことを念頭におき、スポーツ歯科を勧めておくことが、広く国民の理解と共感を得られるであろう。ともすると、歯科では、行為が優先し、その背景にある考え方や哲学が希薄であることがしばしある。このあたりの改善を進めていくことが必要であろう。 |
<プロフィール>

尾崎哲則
現在の専門(福祉・医療を含め)を主にして、歯科医療政策・歯科医療経済、医療管理学
1956 愛知県生まれ
1983 日本大学歯学部卒業
1987 日本大学大学院歯学研究科修了
1998 日本大学教授
2002 日本大学教授・歯学部医療人間科学教室
日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校長
2002-2003 アデレード大学(オーストラリア)客員教授(社会歯科学)
各種委員(2000年以降・主なもの)
2000 医療疾患実態調査精密審査委員責任者(厚生省)
2001 「健康日本21・歯における健康指標の開発と評価に対する研究班」班員(厚生労働省)
東京都歯科医師会地域保健医療常任委員会委員
東京都歯科医師会成人保健医療常任委員会委員
歯・口の健康推進医院(日本学校保健会)
2002 東京都歯周疾患改善指導事業推進委員会委員長(東京都)
2003 東京都大田区「健康太田21」策定委員会副委員長・第3部会長
2004 東京都健康推進事業実施者歯科保健支援モデル事業検討委員会副委員長
東京都歯科保健対策推進協議会 専門部院長
「地域健康増進計画の技術的支援に関する研究班」班長(厚生労働省)
2005 個人情報保護事例集作成臨時委員会委員(日本歯科医師会)
禁煙推進委員会委員(日本歯科医師会)
学会等関連
日本口腔衛生学会 理事・認定医
日本歯科医療管理学会 常任理事
日本産業衛生学会 代議員
日本行動医学会 評議員
全国歯科衛生士教育協議会 理事
最近の著書
8020地域歯科保健活動の現場から ヒョーロン 2001
歯科医院から始める禁煙支援 クインテッセンス 2002
スタンダード口腔保健学 学院書院 2003
人間ドックマニュアル 第3番 医学書院20003
新予防歯科学 第3番 歯科疾患の疫学目標
スタンダード社会歯科学 学建書院 2005 |