ご自身の歯科診療所の状況について
日本大学教授 歯学部医療人間科学教室 歯学博士 尾崎哲則


以下の問いにご自身の歯科診療所の状況について、「はい」「いいえ」で、答えてください。
○医療安全管理について指針を作成しているか? 
○医療安全管理についてマニュアルを作成しているか?
○医療安全管理の責任者を決めているか? 
○医療安全管理の研修を受けているか? 
○院内でミーティングを定期的に行っているか?

すべての項目に「はい」はかなり難しいと思われる。しかし、2007年4月、改正医療法の施行に伴い「医療安全管理体制の整備」が歯科診療所にも義務づけられ、4月からは全歯科診療所が「はい」と答えるのが当然と見なされる(実際には7月までの猶予期間があるが)。

今回の医療法の改正の背景には、国民に対して、「安全」「安心」な医療を提供することが、医療法の改正で打ち出され、その一環として、ここに至った。
近年、生活にかかわるものすべてが、実は「安全」「安心」そして「信頼」に基づいていることに気付いていますか。 日航や不二家の例からもわかるとおり、「生産性」「収益性」を優先して、国民の「安全」「安心」をないがしろにした結果、彼らは客から選択されなくなり、経営が苦況に立たされている。お客さんは「信頼」を選ぶのであり、その基本は「安全」「安心」である。

では、患者に選ばれるための「医療」の「安全」とは何だろう? 医療法1条の2を見ると、「医療」とは「単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない」と明記され、つまり、「医療施設で行われるすべての包括的なサービスにまつわる安全」が「医療安全」なのである。
いままで歯科では「安全に治療する」ことが「医療安全」と考えられる傾向があった。昨今の国民的な意識の高まりを受けて、世間でスタンダードと考えられるレベルの「安全」を、歯科医院でも整備しなければならなくなった。
 統括的な責任者である「医療安全管理者」のほか、感染対策、医薬品や医療機器の安全管理など、さまざまな分野で責任者を設置するほか、マニュアルや医療事故の報告書も含めた、多数の文書を医院に備えておく義務が生じる。研修も定期的に行わなければならない。

まずはマニュアル作りである。雛形が歯科医師会等から例示されるであろうが、各診療所の実状に合わず、改変しなければならない部分が必ず出てくる。そのときに、院長だけでなく、スタッフ全員がディスカッションを通して安全に関する共通認識を醸成し、マニュアルを作り上げていくことが、実は最も大切である。実効性のあるマニュアルを作ることが、安全管理の基本になる。使えないマニュアルを置いておくことは、かえって危険である。さまざまな研修が義務づけられるが、研修から戻ってきたら、研修会に出たスタッフは他のスタッフに伝え検討し、その成果をスタッフ全員で共有すべきである。このような点からも、コミュニケーションは重要であることが認識できると思われる。
院内感染防止対策や医薬品・医療機器の安全管理など、法改正に対応するためには、多大なコストと労力が必要とされが、医療管理体系からみれば、高度にシステム化された、「安全」「安心」な医院をつくるチャンスとも言えるのではないだろうか。
<プロフィール>

尾崎哲則

現在の専門(福祉・医療を含め)を主にして、歯科医療政策・歯科医療経済、医療管理学

1956 愛知県生まれ
1983 日本大学歯学部卒業
1987 日本大学大学院歯学研究科修了
1998 日本大学教授
2002 日本大学教授・歯学部医療人間科学教室
日本大学歯学部附属歯科衛生専門学校長

2002-2003 アデレード大学(オーストラリア)客員教授(社会歯科学)

各種委員(2000年以降・主なもの)
2000 医療疾患実態調査精密審査委員責任者(厚生省)
2001 「健康日本21・歯における健康指標の開発と評価に対する研究班」班員(厚生労働省)
東京都歯科医師会地域保健医療常任委員会委員
東京都歯科医師会成人保健医療常任委員会委員
歯・口の健康推進医院(日本学校保健会)

2002 東京都歯周疾患改善指導事業推進委員会委員長(東京都)
2003 東京都大田区「健康太田21」策定委員会副委員長・第3部会長
2004 東京都健康推進事業実施者歯科保健支援モデル事業検討委員会副委員長
東京都歯科保健対策推進協議会 専門部院長
「地域健康増進計画の技術的支援に関する研究班」班長(厚生労働省)
2005 個人情報保護事例集作成臨時委員会委員(日本歯科医師会)
禁煙推進委員会委員(日本歯科医師会)

学会等関連
日本口腔衛生学会 理事・認定医
日本歯科医療管理学会 常任理事
日本産業衛生学会 代議員
日本行動医学会 評議員
全国歯科衛生士教育協議会 理事

最近の著書
8020地域歯科保健活動の現場から ヒョーロン 2001
歯科医院から始める禁煙支援 クインテッセンス 2002
スタンダード口腔保健学 学院書院 2003
人間ドックマニュアル 第3番 医学書院20003
新予防歯科学 第3番 歯科疾患の疫学目標
スタンダード社会歯科学 学建書院 2005